福井地方裁判所 平成10年(わ)34号・平10年(わ)65号
右の者らに対する各法人税法違反、被告人辻岡一二三に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官杉本秀敏出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人伸光商事株式会社を罰金二〇〇〇万円に処する。
被告人辻岡一二三を懲役二年六月及び罰金四〇〇〇万円に処する。
被告人辻岡一二三において右罰金を完納しないときは、金八万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。
被告人辻岡一二三に対し、この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
第一 被告人伸光商事株式会社(以下、被告会社という)は、福井市文京七丁目一二番五号に本店を置き、家具製造販売、プラスチック製家具用品の製造販売等を目的とする資本金一千万円の株式会社であり、被告人辻岡一二三(以下、被告人辻岡という)は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括していたものであるが、被告会社の取締役兼従業員として、同会社の経理事務に従事していた橋本欣美と共謀の上、同会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、架空経費を計上するなどの方法により所得を秘匿したうえ
一 平成五年七月一日から同六年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二〇二万九三七四円であったにもかかわらず、同六年八月三一日福井市春山一丁目六番一号所在の福井税務署において、同税務署長に対し、被告会社の所得金額が三七八三万六六七四円で、納付すべき法人税額は一二七一万六八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三六七八万九二〇〇円と右申告税額との差額二四〇七万二四〇〇円を免れ
二 平成六年七月一日から同七年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が八五二五万五二七八円であったにもかかわらず、同七年八月二九日福井市春山一丁目一番五四号所在の福井税務署において、同税務署長に対し、被告会社の所得金額が三七五七万一三七二円で、納付すべき法人税額は一二八七万〇二〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三〇七五万一七〇〇円と右申告税額との差額一七八八万一五〇〇円を免れ
三 平成七年七月一日から同八年六月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が九五七六万一〇一二円であったにもかかわらず、同八年八月三〇日前記二所在の福井税務署において、同税務署長に対し、被告会社の所得金額が三七二三万二八〇六円で、納付すべき法人税額は一二五九万九九〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三四五四万八二〇〇円と右申告税額との差額二一九四万八三〇〇円を免れ
たものである。
第二 被告人辻岡は、自己が所有する山林等九筆の土地を三億円で売却したことに関して、右譲渡にかかる所得税を免れようと企て、右土地を二〇〇〇万円で売却したかのごとく仮装する方法により所得を秘匿したうえ、実際の平成八年分の総合課税の総所得金額が二二八二万六七四五円で、分離課税の短期譲渡所得金額が二億八八四五万四九三四円であったにもかかわらず、平成九年三月一四日、前記第一の二所在の福井税務署において、同税務署長に対し、被告人の同八年分の総合課税の総所得金額が二二八二万六七四五円で、分離課税の短期譲渡所得金額が八五〇万円で、これに対する所得税額が七五一万四三〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同八年分の正規の所得税額一億六一三一万七七〇〇円と右申告税額との差額一億五三八〇万三四〇〇円を免れたものである。
(証拠)
括弧内の甲乙の番号は証拠等関係カードにおける検察官請求証拠の番号を示す。
全事実
一 被告人の公判供述
第一の一ないし三の全事実
一 被告人の検察官調書(一六通、乙1ないし5、7ないし17)
一 定池昭夫(甲89)、石川鍵吾(甲98)、朝山美樹雄(甲106)、豊岡幸江(甲107)、橋本欣美(一五通、甲108ないし112、114ないし120、123ないし125)の検察官調書
一 捜索てん末書(二通、甲8、12)
一 差押てん末書(四通、甲9、13、14、16)
一 臨検てん末書(三通、甲7、10、15)
一 査察官調査書(六三通、甲18ないし80)
一 質問てん末書(甲148)
一 商業登記簿謄本(二通、乙18、19)
第一の一の事実
一 橋本欣美の検察官調書(二通、甲121、122)
一 質問てん末書(四通、甲90、92、93、101)
一 証明書(甲1)
一 脱税額計算書(甲4)
第一の二、三の事実
一 被告人の検察官調書(乙6)
一 橋本美由紀(甲105)、橋本欣美(二通、甲113、126)の検察官調書
一 質問てん末書(二通、甲94、97)
第一の二の事実
一 証明書(甲2)
一 脱税額計算書(甲5)
第一の三の事実
一 証明書(甲3)
一 脱税額計算書(甲6)
一 質問てん末書(三通、甲95、96、102)
第二事実
一 被告人の検察官調書(六通、乙22ないし27)
一 三谷雄晧(甲137)、竹内茂夫(甲138)、橋本欣美(三通、甲139ないし141)、斉藤八重子(五通、甲142ないし146)の検察官調書
一 査察官調査書(五通、甲74、153ないし156)
一 証明書(二通、甲130、147)
一 杉本優子の質問てん末書(甲148)
一 脱税額計算書(甲132)
一 脱税額計算書説明資料(甲152)
一 登記簿謄本(九通、甲133の1ないし9)
一 電話聴取書(甲151)
一 遺失届書(甲150)
一 捜索てん末書(二通、甲8、12)
一 差押てん末書(四通、甲9、13、14、16)
一 写真撮影てん末書(二通、甲17、134)
一 臨検てん末書(五通、甲7、10、11、15、136)
(法令の適用)
一 罰条 第一の一ないし三 平成一〇年法律第二四号による改正前の法人税法一五九条一項、二項(情状による)、一六四条一項、刑法六〇条(ただし第一の一につき 平成七年法律第九一号による改正前の刑法六〇条)
第二 平成一〇年法律第二四号による改正前の所得税法二三八条一項、二項(情状による)
一 刑種の選択 被告人辻岡につき 情状により懲役と罰金を選択(併科)
一 併合罪加重 被告会社につき 刑法四五条前段、四八条二項
被告人辻岡につき 刑法四五条前段、同法四七条本文、一〇条、(犯情の最も重い第二の罪の刑に法定の加重)、四八条二項
一 労役場留置 被告人辻岡につき 同法一八条
一 懲役刑の執行猶予 被告人辻岡につき 同法二五条一項
(量刑の事情)
本件法人税法違反、所得税法違反の各事案とも私利私欲のために行った犯行の動機に同情の余地はなく、脱税額の多額さ、態様の巧妙、計画性、犯行後の事情からみて、かなり悪質な事案というべきである。善良な納税者の納税意欲、申告納税制度の健全な運用に悪影響を及ぼすものであって、被告人らの刑事責任は軽視することができない。被告人辻岡については、懲役刑につき実刑も考えられるところである。
すなわち、本件のうち、法人税法違反事件については、簿外資金を蓄えるために、三事業年度にわたり売上金などを除外し、架空の経費を計上するなどして、虚偽過少な申告をして脱税を繰り返し、ほ脱税額は合計六四〇〇万円に上り、ほ脱率は、税額で約六二パーセントに及ぶ事案である。
次に、所得税法違反の事件については、ほ脱税額は約一億六〇〇〇万円の多額に上り、ほ脱率は、税額で約九〇パーセントに及ぶ大規模な脱税の事案である。被告人辻岡は、土地売却による譲渡所得を秘匿するために、架空契約書を作成して売買の中間に第三者が介在したかのように装うという巧妙・狡猾な手段を弄していたうえ、被告会社に対する法人税法違反事件について強制査察が行われたのに、その翌年に本件所得税の虚偽過少申告行為をおこなったというのであり、国税当局による査察、調査にも協力的ではなく、また、脱税による所得により約一億一五〇〇万円もの金の延べ板を購入し隠していたことなど犯情悪質というべきである。
しかしながら、被告人辻岡は、これまでに約二一年前及び一〇年前に罰金刑に処せられたほか、前科もなく実直に生活してきた者であること、本件発覚後、法人税・所得税とも修正申告をし、ほ脱にかかる本税、付加税(延滞税、重加算税)をすべて納付していること、相当期間身柄を拘束されたり、マスコミに報道されるなど社会的制裁を受けていること、本件につき真実を述べ、会社代表者を辞任するなど反省の気持ちが認められるなど被告人のために酌むべき事情もある。これらの諸情状を総合考慮し、被告会社については、罰金二〇〇〇万円に処し、被告人辻岡については、懲役二年六月及び罰金四〇〇〇万円に処するが、懲役刑については四年間刑の執行を猶予することとする。
(裁判官 松村恒)